2023.05.30 (最終更新:2023.05.30)

Sponsored by 第一三共ヘルスケア
身近なプラスチック素材でありながら、資源としての認知度が低く、きちんとリサイクルされてこなかった「おくすりシート」。第一三共ヘルスケア株式会社ではそんな「おくすりシート」を回収・リサイクルして再利用する実証実験をおこなっている。そこでこのプログラムの意義や回収状況、今後の展望などを、同社サステナビリティ推進リーダーの阿部良さんに聞いた。
リサイクルの仕組みが整っていなかった「おくすりシート」

――「おくすりシート リサイクルプログラム」を始めたのはなぜですか。
弊社ではサステナビリティ推進の取り組みを加速していく中、2019年に各部署からメンバーが参集するサステナビリティ推進委員会を立ち上げ、様々な活動を検討してきました。
循環型社会におけるいわば「動脈」である「ものづくり」分野では、すでにプラスチック使用量の削減、バイオマスプラスチックの使用といった取り組みを進めています。
一方、製品を使い終わった後の回収や再利用といった「静脈」分野には着手できていませんでした。とくに「おくすりシート」が資源であることの認知度が低く、また、回収量も少ないことなどから、ペットボトルのようなリサイクルの仕組みが整っていません。そのため多くが廃棄されています。
「おくすりシート」は国内だけで年間1万3000tほどが生産されており、今後も高齢化の進展とともに使用量の増加が見込まれます。製薬会社として、健康を支える医薬品の包装材が自然環境を損ねてしまう問題に取り組むことは大きな社会的責任だと考えました。
――「おくすりシート」もリサイクル可能なんですね。
プラスチックとアルミニウムですから。「おくすりシート」には資源有効利用促進法に基づき、分別をしやすくするために用いられる識別マークとして「プラマーク」などが印刷されているのですが、仕組みがないため、生活者の多くは資源であることに気づかず、可燃ごみや不燃ごみとして捨ててしまっているのが現状です。「おくすりシート」が貴重な資源として再利用できることを多くの方に知っていただくことは、このプログラムの大きな目的の一つです。

――そもそも「おくすりシート」は必要なのですか。素材にプラスチックとアルミニウムを使っている理由はあるのでしょうか。
医薬品は使用期限内において成分の含有量・性状・品質が保持されている必要があり、製品によって異なりますが、それが3年や5年といったように長期間にわたります。そのためには空気や湿気、光を遮ったり、圧力から守ったりしなくてはなりません。それに、一つひとつ切り離せる個別包装になっていたほうが、外出先などへも持っていきやすいですよね。
また、「おくすりシート」をプラスチックだけにするというアイデアもありますが、それだと固いので薬を取り出すときに力が入って中身が飛び出してしまう恐れがあります。そのため、「おくすりシート」は、防湿性にも優れ、アルミ箔の柔らかさによる取り出しやすさも兼ね備えた素材であるアルミニウムとプラスチックを貼り合わせた仕様となっています。

実施期間の約半分で目標量の約3倍を回収 「こんな取り組みを待っていた」との声も
――2022年10月から横浜市の一部で実証実験をスタートされました。
回収ボックスを薬局やドラッグストア、病院だけでなく、高齢者の方々もよく立ち寄る公共施設にも置きたいと考えました。となると、自治体の協力が不可欠です。横浜市は「SDGs未来都市」に選定され、持続可能な社会に向け、先進的な取り組みをおこなっています。また、横浜市を含む神奈川県は、一人あたりの医薬品購入金額が、全国1位なんですね。そこで横浜市に相談したところ、「市民のごみ分別の意識向上や啓発にもつながる」と評価いただき、協力していただけることになりました。
――「おくすりシート」の回収はどのようにおこなっているのですか。
現在、横浜市中区を中心に40カ所で専用の回収ボックスを置かせていただいています。そこに使用済み「おくすりシート」を投函(とうかん)していただきます。ボックスがいっぱいになったら、回収拠点の職員や店員の方が所定の受付窓口に連絡を入れるだけで、数日以内に宅配便が回収に来ます。この回収フローにより、回収拠点への負担が掛からないことが当初見込んでいた回収拠点数を大幅に超える参画につながった要因の一つではないかと思います。
――これまでの成果や反響を教えてください。
思っていた以上の「おくすりシート」が集まり、驚いているというのが正直なところです。回収ペースが月を追うごとに増え、当初目標に掲げていた10万シートについては2023年3月末で達成し、4月末時点で28万枚相当のシートが集まりました。実施期間の約半分で目標量の約3倍を回収したことになります。
回収したなかには、「おくすりシート」が袋にぎっしり詰まったものもあって。毎日、コツコツためてくださった様子が目に浮かび、なんとも言えない気持ちになりました。弊社のお客様相談窓口にも横浜市以外で暮らす方から「どうやったら参加できるのか?」「自分の町にはいつ設置されるか?」といった問い合わせもいただいています。「こんな取り組みを待っていた!」とのお声も頂戴し、環境のために何か身近で取り組めることがないかと考えている方がことのほか多いのだと実感しました。


脱プラスチック社会に対応するために
――回収した「おくすりシート」のリサイクル工程についても教えてください。
実証実験として9月末まで回収を続け、その後、リサイクル工程にかける予定です。一口にプラスチックといってもその種類は製品によって異なるので、種類ごとに分別し、熱処理してプラスチックをアルミニウムから剥離(はくり)します。そのうえでプラスチックは再生ペレットにして資源化します。横浜市民のみなさんにご協力いただいているので、まずは再生ペレットをもとに制作した製品を何らかのかたちで横浜市民の方々に還元することも考えています。
――リサイクルは環境のためにおこなうわけですが、そのためにエネルギーや水を大量に使うようではかえって環境に負荷を与えてしまいます。
確かに、ほかのプラスチック・リサイクルのお話を聞くと、汚れがひどい製品などは洗浄に手間や大量の水が必要で、リサイクルとして成り立たせることが大変なケースもあるようです。その点、「おくすりシート」の場合、ほとんど汚れていることがなく、洗浄工程での手間はさほどかかりません。ただ、一つひとつがとても小さなものなので、少ないボリュームでリサイクルを回そうとすると、配送などのために使うエネルギーに見合わないものになってしまいます。効率的に回収し、一定量をまとめてリサイクルできる仕組みにしていくことが、今後はとても重要なポイントだと考えています。
――このプログラムには御社としても、それなりの人員とコストを割いて取り組まれていますが、あくまで社会貢献なのでしょうか。それとも御社のコア事業に資する取り組みとの位置づけなのでしょうか。
昨今、「ワンヘルス」という考え方が注目されているように、人の健康と自然環境の健やかさは切り離すことはできません。第一三共グループはパーパスとして「世界中の人々の健康で豊かな生活に貢献する」ことを掲げています。人々の健康ととともに、将来世代の環境を守ることを同時に実現する社会の仕組みを確立するために、今回の取り組みがあります。つまり、事業に先立ち、弊社の存在に関わる取り組みと言えます。
その一方で、コア事業とまったく関係ないわけではありません。すでにヨーロッパでは脱プラスチック社会を目指し、プラスチックごみの削減や再生プラスチックの利用が強力に推進されています。日本もやがては同じような状況になることも考えられます。そうなって突然、「再生プラスチックを使わなければ」と動こうとしても間に合いません。そう考えると、このプログラムを通じて、再生プラスチックに関する知見やノウハウを蓄えておくことは、今後の事業に対する先行投資と捉えることもできます。

様々なパートナーを得て、大きな循環の輪へ
――実証実験から次のステップへ進む段階を見すえての課題や展望はありますか。
先ほど申し上げたように、一定量を確保して「おくすりシート」のリサイクルを実効性のあるものにするには、より多くの人に参加していただき、大きなリサイクルの循環を回す必要があります。すでに「回収拠点として参加したい」との声は多数いただいていますが、今後は環境問題に関心の高い他の製薬会社にもぜひ主催者として参加していただきたいので、その仕組み作りも検討していきたいと考えています。
私ども1社にできることには限りがあります。医薬品をとりまく関係者全体の取り組みへと発展させることができれば、回収拠点も全国的に広げられ、啓発活動にも厚みが増すでしょう。すでにいくつか問い合わせをいただき、この取り組みについてお話しさせていただく機会も増えています。薬の開発については特許や守秘義務があり、同業他社の方にお話しできないことが多いのですが、このプログラムはオープンであり、みんなで協働して取り組むテーマだと感じています。そういった意図から、回収対象を弊社の製品に限らず、OTC医薬品・医療用医薬品すべての「おくすりシート」としています。
――ちなみに阿部さんご自身は、以前から環境問題に関心をお持ちだったのですか。
率直に申し上げると、意識が高いほうではありませんでした。でもこのプログラムに関わるようになって、おのずと環境への関心が高くなりました。ニュースを見ていても、気候変動に関わるものには自然と目が行きます。環境関連のイベントに子どもを連れて行く機会も増えましたね。将来世代である子どもたちのために、このまま地球温暖化が進んでしまうようなことは絶対に避けたいと思うようになりました。
――人は何か小さなアクションを起こすことで、当事者意識が芽生えるんですね。
そういった意味では「おくすりシート」のリサイクルという身近な取り組みが、より多くの人の意識や行動の変化につながっていってほしいという思いでいます。最初は「本当に集まるのだろうか?」と心配もしたのですが、まずは一歩踏み出す。その結果から学んだことをみなさんと共有しながら、このプログラムをさらに大きな輪にしてきたいですね。


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