浦尾悠子 千葉大学子どものこころの発達教育研究センター・特任講師
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「勇者の旅」を開発した当初から、私は「このプログラムには本当に効果があるのか」「効果があるとすればどの程度なのか」に注目してきました。認知行動療法の研究では、介入の効果を評価する指標として症状評価尺度が用いられます。予防プログラムの介入研究においても、症状評価尺度を用いることが一般的なため、「勇者の旅」の研究では、先行研究に倣って「スペンス児童不安尺度(Spence Children’s Anxiety Scale:以下SCAS)」という質問紙を採用しています。
SCASは子どもの自記式質問紙で、「なんとなく怖い」「学校での活動がちゃんとできるか心配です」などの全38項目に対し、0「全然ない」~3「いつもそうだ」の4件法で回答します。SCASでは、プログラム実施学級(介入群)だけでなく、非実施学級(対照群)の子どもたちにも回答してもらい、対照群に比べて介入群に有意な変化が見られたかどうかを分析します。
予防研究の場合、もともと不安症状を持たない子どもが大半のため、不安症状のある子どものみを対象とする臨床研究に比べると、効果が示されにくい側面があります。また、当初はあまり不安を自覚していなかった子どもが、「勇者の旅」の授業によって自身の不安に気付き、むしろSCASスコアが上昇するケースもあります。そこで「勇者の旅」の研究では、1回目の時点でSCASスコアが高かった子どもたち(高不安群)のデータのみを取り出して、二次的な分析もしています。
ここで、2021年に論文化した大規模効果検証研究の結果の一部をお示ししたいと思います(詳細は論文をご覧ください)。この研究は、不安の予防教育プログラムに関する日本国内初の大規模研究となりました。小学校27校(介入群1583人、対照群1095人)の5~6年生に「勇者の旅」を実施してもらい、前後のSCASスコアを解析したところ、介入群のスコアが対照群に比べて有意に低減したことが確認できました(図参照)。また、実施前に高不安群だった子どもたちだけを取り出して解析した結果も同様に、介入群のスコアが有意に低減していました。
ただ、この研究にも限界があります。例えば二群にランダム割付するなどの厳格な研究デザインを採用することができていないため、まだエビデンスとして十分ではありません。今後、クラスターランダム化比較試験(c-RCT)を行うためには、より多くの学校で「勇者の旅」が実施される必要があるため、全国に実践校を増やしていきたいと考えています。
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