半世紀を超えた人類の夢。
1972年以降、人類は月面に降り立っていませんが、NASAはそんな状況を意欲的なアルテミス計画で変えようとしています。2022年後半にも始まるかもしれない月へのミッションについて、現時点で分かっていることをまとめました。
1972年12月14日、アポロ17号の宇宙飛行士ユージン(ジーン)・サーナンとハリソン・シュミットは月に別れを告げました。地球へと向かう中で、彼らはまさか人類が再び月面に戻るまで半世紀以上も間が空くとは思わなかったでしょう。しかし、それがまさに今の私たちの状況で、アポロ計画は歴史の本の中の出来事です。
NASAのアルテミス計画とは?
アルテミスとは再び月面探査を実現する計画で、NASAは2025年以降の女性と男性の月面着陸を目指しています。しかし、アルテミス計画はただ単にふたりの人間を月に降ろすだけではありません。今回、NASAは持続可能な駐留拠点を月面と月の軌道上に構築し、プログラムを次の大躍進、すなわち火星への有人ミッションに向けた足掛かりとして活用することを計画しています。
2017年に発表されたアルテミスは、NASAのアルテミス計画概要によれば「人類の存在を太陽系全体へと広げられるようにする」ものです。アルテミス時代は最大で11のミッション(有人と無人を含め)を伴う可能性があり、そのうち最初の5つの開発が現在進められています。
長期的なゴールには月周回有人拠点「ゲートウェイ」(月軌道上を周回する初の宇宙ステーション)の建設とアルテミスベースキャンプ(月面拠点)の導入が含まれています。商業的と国際的なパートナーの両方が携わり、後者にはカナダ宇宙庁、欧州宇宙機関(ESA)、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が名を連ねています。
なぜNASAはアルテミスという名称を選んだの?
アルテミスはギリシア神話に登場する月と狩猟の女神であり、アポロの双子の妹なので、最初の有人月面ミッションを彷彿させる良い名称でしょう。しかし、公平な立場でいうと、アポロはギリシア神話では太陽神ですから、月へのミッションならばアルテミスの方が優れた名前のチョイスかと。新しい名称は、性差別的とも考えられる見落としへのタイムリーな修正とも言えるかもしれません。
NASAが月に戻る理由は?
2017年12月11日に署名された宇宙政策指令によれば、合衆国はNASAを通して「人類(の活動領域)を太陽系全体へと拡張できるようにして、地球に新たな見識と好機を持ち帰る、商業的と国際的なパートナーとの革新的で持続可能な探査プログラム」を導くことを目指しているそう。ホワイトハウス覚書には「地球低軌道以遠の任務を皮切りに、合衆国は長期的な探査と活用に向けた人類の月面再訪を導き、その次に火星と他の目的地への有人ミッションが実施される」と続いていました。
もっと分かりやすく言うなら、衛星への再訪の目的は新たな科学的発見を促し、潜在的な経済的利益を調査し、そしてNASAいわく「探査者の新世代」を触発することです。
確かにその起源や化学組成など、月について学ぶことはまだたくさんあります。何よりアルテミス計画の宇宙飛行士たちは、月での持続可能な駐留拠点の成功の鍵である水氷を探すために南極地方を探査する予定。アルテミスは、宇宙ツーリズムあるいは希土類元素やヘリウム3など資源の採掘といった月の商業化への道も切り開くかもしれません。
アルテミスが部分的に火星への足掛かりになっているという点もきわめて重要です。このような任務の過程で生まれたテクノロジーと得た知見によって、NASAとパートナーらは最終的に有人ミッションを赤い惑星へと打ち上げられるようになるのです。
アルテミス計画に必要なテクノロジーは?
NASAと官民両方のパートナーたちは、大量の新テクノロジーを開発している最中です。宇宙飛行士たちが月へ向かって帰ってくるための宇宙船「オリオン」は既に開発済みですが、それ以外のほとんどすべては依然として未構築です。NASAが「超大型月ロケット」と呼ぶ高さ322フィート(約98m)の巨大なSLS(スペース・ローンチ・システム)も含まれています。
鍵となるテクノロジーにはそれ以外にも、NASAが有人着陸システム(HLS)と呼ぶ2タイプの月着陸船、「xEMU」という月面用の宇宙服、非与圧ローバー、前述の「ゲートウェイ」(これ自体も複数のエレメンツを伴います)、そして多くの地上システムなどが含まれています。
アルテミス計画にかかる費用は?
これらの費用は莫大な金額に登ります。2021年11月15日の内部の監察室による会計検査は、アルテミスには既に400億ドル(約5兆1000億円)が使われており、NASAは2025年末までに合計930億ドル(約11兆8650億円)を費やすだろうという予測を示しました。憂慮すべきことに、同じ報告書はSLSと宇宙船「オリオン」の最初の4回の打ち上げでは、1回あたり推定41億ドル(約5230億円)かかると主張。NASAがこのコストを削減できなければ、「現在の構成でアルテミス計画を維持するにあたって重大な難題に直面するだろう」と監察室は警告していました。
SpaceXはアルテミスに携わっている?
SpaceXはアルテミスにおいて重要な役割を担っています。2021年4月、イーロン・マスク氏率いるこの企業は、ミッションに月着陸船を提供する28億9000ドル(約3700億円)の契約をNASAと締結。同社はその基盤にロケット「スターシップ」を活用するつもりで、この巨大ロケットは月面への垂直着陸を行うことが求められています。
月面着陸の前に、スターシップ着陸船は地球低軌道で燃料補給を行い、宇宙飛行士を月軌道に輸送したオリオンとドッキングする必要があります。求められる技術の複雑さにはゲンナリしそうですが、SpaceXのチームがうまくやるかどうか首を長くして待ちましょう。とはいえ、NASAは月着陸船の新たな開発企業の募集もしています。
NASAはアルテミスミッションの宇宙飛行士を選んだ?
アルテミスミッションに参加する宇宙飛行士たちの名前をNASAはまだ公表していませんが、「次の月ミッションへの準備をサポートする」ための宇宙飛行士たちの初期チームを招集しています。アルテミスの初の有人ミッションは早くても2024年までは行われないので、誰がどの立場でかかわっているのかを知るのはもう少し先になりそう。
アルテミス1の打ち上げはいつ?
巨大なSLSロケット初の打ち上げで、無人のミッションとなるアルテミス1の明確な日程は設定されていません。NASAは待望の発射に向けて今も準備している最中ですが、5月初旬にお伝えしたように早くても8月下旬までは実現しないでしょう。
NASAのミッションプランナーはアルテミス1ミッションの今後の打ち上げ可能期間を発表しています(最初の期間以外は、予備的にリストアップされています) 。
- 7月26日~8月10日(8月1、2と6日は除外)
- 8月23日~9月6日(8月30、31と9月1日は除外)
- 9月20日~10月4日(9月29日は除外)
- 10月17日~31日(10月24~26と28日は除外)
- 11月12日~27日(11月20、21と26日は除外)
- 12月9日~23日(12月10、14、18と23日は除外)
この任務では、無人宇宙船「オリオン」が月まで飛行するも着陸はせず、地球に戻ってきます。アルテミス1は実際のミッションの状況下で完成したばかりのロケットとオリオンのテストという役割を果たし、有人ミッションに向けて準備を整えます。
アルテミス1では低コストのキューブサット13機を展開し、船内には宇宙飛行士たちを放射線から保護するためのベストを着用し、振動と宇宙放射線の測定用に設計された3体のマネキンが搭乗します。
アルテミス2の打ち上げはいつ?
「オリオン」カプセルに人間が搭乗して月へと向かい、月面着陸せずに地球へと帰ってくるアルテミス2は、現時点で2024年5月以降に予定されています。このミッションはアルテミス1とそっくりですが、4名のNASA宇宙飛行士がいるという点で異なります。
アルテミス3の打ち上げはいつ?
アルテミス3は2025年以降を目標としています。月の南極地方に男性と女性が降り立つ計画で、彼らは1週間近くにわたって月面を探査します。残りふたりのクルーは、オリオンに連結されているゲートウェイに滞在します。すべてが計画通りに行けば、ミッションに先立って非与圧ローバーや他の機器類が月面に配置されるとか。4回の船外活動が計画されていて、水氷の探索が優先されるそう。
アルテミス4の打ち上げはいつ?
4回目のアルテミスミッションは、現時点では2026年に計画されています。4名の宇宙飛行士がゲートウェイへと打ち上げられ、月での拠点の組み立てを続けます。この任務ではESAの国際居住棟「I-Hab」をゲートウェイに運搬。ゲートウェイはほぼ直線的なハロー軌道(Near Rectilinear Halo Orbit、NRHO)で活動します。I-Habはやがて、宇宙飛行士たちがゲートウェイに滞在する際の主要居住棟としての役割を果たすでしょう。このミッションでは月面着陸は行われない予定です。
アルテミス5の打ち上げはいつ?
アルテミス5は2027年に打ち上げられるはず。ゲートウェイに4名の宇宙飛行士を送ってから、そのうち2名を月面に派遣するという計画です。宇宙飛行士たちは再び月の南極地方を探査します。
この任務では、ゲートウェイにESAの「ESPRIT(燃料補給、インフラと通信技術を提供する欧州のシステム:European System Providing Refueling, Infrastructure and Telecommunications)」も届ける予定。ESAによると、 ESPRITは「強化された通信技術と燃料補給、国際宇宙ステーションにある欧州製の展望室キューポラのような窓を供給する」とのこと。
その後は?
アルテミスミッション6~11はまだ提案段階にあるので、打ち上げ時期やどんな内容になるかは不明です。
そうはいっても、ゲートウェイにはエアロックが必要になりますから、アルテミス6が実現するのであれば、その目的はそのコンポーネント引き渡しと取り付けになるでしょう。こういうアルテミス計画の後期ミッションは領域と野心の両方で拡張し、人類が月で持続的に駐留できるよう設計されたエレメンツの中でも特に月上の居住環境、与圧された移動型の住居の導入を目にする可能性が高そうです。この段階になれば、月で最大で45日間に及ぶ冒険を行えるかもしれません。
アルテミス計画が期待通りに展開されれば、NASAは火星への有人探査の計画を立てられるようになります。クルーが赤い惑星に着陸するのは、現時点では2030年後半か2040年初頭と予想されています。火星に向かうも着陸せずに帰還する有人遠征は、火星と地球の理想的な軌道の配列を活用するため2033年に実現するかもしれません。
それを起点に太陽系の残りの惑星を目指すわけですが、アルテミス計画からすべてが始まるのです。
Source: NASA(1, 2, 3, 4, 5, 6, 7), Department of State, YouTube(1, 2), ESA(1, 2)
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