2020年09月06日12時00分
「ダメな男を演じる方がやりやすい」と言う。そんな豊川悦司が、第2次世界大戦の命運を決した戦いを描くハリウッド映画「ミッドウェイ」(ローランド・エメリッヒ監督)で、名将とたたえられた旧日本海軍の連合艦隊司令長官、山本五十六役に挑んだ。
大河内伝次郎や三船敏郎、小林桂樹ら、数多くの名優が演じてきた大役。「物語の一登場人物としての役割を果たしつつ、どうしたら魅力的に見えるかを考えながら演じた」。人間的な弱さにも目配りしたという立体的な人物造形が、単なる歴史上のアイコンにとどまらない人間性を醸し出す。
日本軍による真珠湾攻撃から、さまざまな駆け引きを経てミッドウェー海戦で日米両軍が激突するさまを最新のVFX技術を総動員して描く。日本からは豊川のほか、浅野忠信、國村隼が出演。米軍側のキャストは、エド・スクライン、パトリック・ウィルソン、デニス・クエイド、ウディ・ハレルソンら米英混合の実力派で固められている。
監督のエメリッヒはドイツ出身で、メガヒット作「インデペンデンス・デイ」や米国版「GODZILLA」で知られるビッグネーム。今作は20年来の念願だったという。豊川は、日本と同じ敗戦国に生まれた映画人の企画だったことに興味を持った。
安手のハリウッドの戦争映画にありがちだった、日本人が悪役のパートを背負うようなものにはしたくなかったという。「その点に関しては、監督やプロデューサーがすごく繊細に気を遣ってくれた。『日本が負けた』という事実は事実として、日本人の俳優が演じても不快なことは何もないようなシナリオになっていました」
1962年生まれの豊川にとって太平洋戦争は遠い歴史上の出来事だが、これまでにも新藤兼人監督の遺作となった「一枚のハガキ」など、戦争の悲劇を扱った作品に関わってきた。戦後75年が経過し、戦争の記憶や関心が薄れる中、戦争映画の果たす役割は以前にも増して大きくなったと感じている。
「内容がアクション重視のエンターテインメントでも、事実の上に立つフィクションである以上、戦争映画で大きなうそは絶対につけない。古い出来事は時間がたつにつれてどんどん遠いところに行ってしまうが、戦争から学べることはまだ残っている。たとえエンターテインメントと融合した形であっても、戦争の物語を提出していくことは、クリエイトする側の責任のような気がします」
◇日米の映画に対する意識の違いを痛感
舞台畑から映像の世界に進出し、数々の映画やドラマで活躍、俳優歴は35年以上を数える。今作を撮影した2018年は、個性あふれる漫画家を演じて評判を呼んだNHKの連続テレビ小説「半分、青い。」を皮切りに、台湾と日本の合作映画「パラダイス・ネクスト」、岩井俊二監督の「ラストレター」にも出演した。
「僕に(『半分、青い。』の)秋風羽織を頼む人がいて、かたや山本五十六をオファーする人がいる。プロデューサーや監督が僕の中にいろんなイメージを持ってくれるのが面白い」
織田信長や夏目漱石など実在した人物も数多く演じてきた。だが、記録や資料が豊富に残る五十六のような人物を演じるのは、武士役のように100%想像で演じるときとは違う難しさがあったという。
今回、役作りで最も参考になったのは、息子や家族が伝える“素”の五十六の姿だったという。「彼の人間的な何かを拾いたかった」。部下を演じた浅野との場面はあえて軍人的な厳しさは強調せず、「年の離れた兄貴か年の若い父親のように見えればと思って演じた」と話す。
脚本からは司令官としての五十六の孤独も感じ、自身も“心の揺れ”を強く意識して演じたという。「悩まない人など、この世にはいない。一見悩んでいるようには見えないのに、見た人には『実は悩んでいるんでしょ?』と思ってもらうのも僕らの仕事。五十六さんはすごくぶれていたことが伝わったら面白いと思います」
一方で職業軍人的なたたずまいにも注意を払ったが、軍帽をかぶり、軍服に身を包むと自然に背筋が伸びたという。「男の血なのでしょうか。ちょっと語弊があるかもしれないが、演じていてとても楽しかった」と振り返る。
来年3月には59歳になる。「年寄りがメーンの企画は少ないから、これからは(同年代の俳優との)役の奪い合いが始まるのかな」と冗談めかすが、「そんな状況の中でどんなことができるかが楽しみ」とも言う。シニア世代のラブストーリーなど、新たな領域への挑戦にも興味があるが、今演じてみたいのは「汚れた老人役」。「例えば年金をだまし取っている老人とか。(かつて出演した)『後妻業の女』の男版みたいな役が楽しそう」と笑う。
過去にも海外の映画人との仕事は経験していたが、ここまでのビッグプロジェクトへの参加は今回が初めてだった。映画作りに国境はないことを実感すると同時に、日米の映画に対する意識の大きな差を痛感せざるを得なかったという。
「国や国民が映画産業を文化として捉えてくれているのかいないのか。ロケーション一つとっても、協力体制が日本とは全く違っていた。日本の場合、『(映画は)必要ではないもの』という考えがどこかにある気がする。自分の職業的に言わせてもらえるなら、もし無くなったらさみしいよと思うのですが…」
穏やかなトーンの中にも強い実感を伴った言葉が、日本の映画人に大きな課題を突き付けているような気がした。
「ミッドウェイ」は9月11日公開。(時事通信社編集委員・小菅昭彦、撮影・入江明廣)
豊川悦司(とよかわ・えつし)=大阪府出身。「3-4×10月」「12人の優しい日本人」などで注目され、人気俳優に。正統派の二枚目から喜劇までを幅広く演じる性格俳優として数々の作品に出演する。映画の代表作に「Love Letter」「愛の流刑地」「必死剣 鳥刺し」など。近作に「一度も撃ってません」がある。
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September 06, 2020 at 10:00AM
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