その人を信頼していても被害者を攻撃しないで
セクハラを含む性暴力の訴えが被害者から行われたとき、被害者に対して誹謗中傷が行われることがあります。加害者が著名人だった場合は必ずといって良いほど、加害者にとって都合の良い情報が出回ります。
ここ数年を振り返っても、例えば強制わいせつ容疑で書類送検(起訴猶予処分)された山口達也氏から被害に遭った高校生に対して、ネット上では心ない声が大量に書き込まれました。何の信憑性もないうわさを元に、未成年の被害者がバッシングされました。
過去を遡れば、大阪府知事だった横山ノック氏のセクハラを告発した女性は、著名なコメンテーターらからも二次被害を受け、のちに当時のことを振り返って「頑張れ、頑張れと自分に何度言い聞かせても、うわさは広がるばかり、裏切られるばかり、そしてことごとく責めら続けました」と苦しかった胸の内を綴っています。(※横山氏は強制わいせつで有罪判決)
声を上げる性暴力被害者に対して社会の中にまだ偏見の目があること、それを利用してきた加害者がいることは、過去から学べます。
加害行為を行ったとされる人のファンからすれば、「そんなことをしたはずはない」と思いたくなるものかもしれません。ただ、その感情を被害者への攻撃に変える必要はありません。
箕輪厚介氏のオンラインサロン内発言「何がセクハラだよボケ」
幻冬舎の有名編集者・箕輪厚介氏が、文春オンラインでセクハラを報じられたことに対して、その後、自分のオンラインサロンメンバーに向けて、被害者の人格を否定するような発言をしていたことが報じられています。
【参考】幻冬舎 箕輪厚介氏「何がセクハラだよボケ」「俺の罪って重くない」「反省してない」オンラインサロン会員へ大放言《動画入手》(文春オンライン/2020年5月30日)
記事内の動画では前後がわからないものの、箕輪氏が下記のような発言をしていることがわかります。
《何がセクハラだよボケ。あいつが一番キチガイじゃねえか》
《俺は反省してないです。ふざけんなバーカ》
《内輪の中でいうと、徐々に相手の女性の異常性っていうのが知れ渡ってきて「さすがに箕輪さんこれでやられるのはおかしいんじゃない?」っていう話がやっとこさ出てきたんで、それはちっちゃいながらの前進かなと思うんですけれど》
動画内の箕輪氏は酒に酔った様子で、やや自暴自棄になっているようにも見えます。また、この記事が出ることがわかったタイミングと思われる29日夕方には「死にたい」とツイートしています。
精神的に不安定な様子なので、周囲の人が箕輪氏を心配する気持ちはわかります。ただ、もし箕輪氏と一緒に被害者の誹謗中傷を行ってしまうのであれば、それは加害者周辺によく見られる典型的な行動パターンです。
ツイッターでも「トラップ。よろしくお願いします。」
箕輪氏は最初の報道が出たあとの5月19日午後、突然「トラップ。よろしくお願いします。」とツイート(その後削除)。
これに対し、「やはりハニートラップだったんですね!」などのリプライが飛びました。このタイミングでの「トラップ」という言葉は「ハニートラップ」を連想させるのにじゅうぶんでした。
性被害の告発者には、「ハニートラップ」「枕営業」といった言葉が浴びせかけられることがたびたびあります。箕輪氏の「トラップ」の一言で、了解しましたとばかりに「ハニートラップ」を読み取る人がいることからもわかる通り、加害者が大した説明を行わなくても、「ハニトラ」「枕営業」と聞くだけで何かをわかった気になってしまう人がいます。被害者側の視点を持たない人たちです。
ちなみに、セクハラを疑われた人は反論してはいけないのかと言われそうですが、箕輪氏はA子さんに性的交渉を求めるメッセージを送ったことを否定していませんし(箕輪氏は『ジャブ』と表現)、箕輪氏の言動はただの被害者バッシングで反論にもなっていません。
「フェミニストとかいないよね」とは
私は、ここまでやってはいけない二次加害のテンプレート行動をしてしまう箕輪氏に驚きます。最初の報道時、文春の取材に「僕話したいんですけれど、会社が弁護士立ててやってて、そういう取材がきても答えるなってだいぶ前から言われてて」と答えていた箕輪氏が、オンラインサロン内ではここまで脇の甘い言動をすることにも。幻冬舎にはハラスメントの研修がないのでしょうか。
箕輪氏のオンラインサロン「箕輪編集室」の退会を決めたという大学生が先日公開したブログ記事には、サロンのイベント中に「女子フェミニストとかいないよね」という発言がよくあったこと、それについて「フェミニストがいたら問題ですか?」と疑問を持ったことが綴られていました。
一方で、この後に公開された他の社会人サロンメンバーの記事には、大学生の書いた記事に対して「フェミニストという言葉はネットのごく一部でしか聞いたことがないので一体どこのイベントなのか」「フェミニストという言葉そのものが分断を呼んでしまうと思っているのでなるべく使わない方が良いでしょう。ジェンダー問題に携わっているとよく出てくる言葉なんですかね」と書かれていました(現在は記事削除)。
2カ月で退会を決めたという学生メンバーと、2年間在籍してこれからもサロンを続けるという社会人メンバー。ブログを書いた学生メンバーは大学内で性暴力の根絶を目指す団体にも所属しているそうで、ジェンダー問題への意識の持ち方が社会人メンバーと対照的に見えました。
オンラインサロン内のメンバー間のこのギャップは、実際の社会の反映であるとも思います。ジェンダー問題についてあまり考えたことがない人が、すでに活動している人に説諭し始めるのもよくある光景です。
性暴力や性差から起こる社会問題は、人によって意識の差が大きく、知識の量にも差があります。性暴力や性差別について深く考えずに人生を過ごせる人と、そうでない人がいます。
箕輪氏がどちらのタイプかは明らかです。彼がもし、セクハラを含む性暴力を真面目に考え、二次被害とはどんなものかや加害者が取る行動がどんなものかを知っていれば、少なくとも「トラップ」などというツイートはしなかったのではないでしょうか。
#metooや#KuTooのムーブメントがあり、ここ最近フェミニズムに関する書籍も多く刊行される中で、こんな二次加害を行う人が「天才編集者」の肩書きで世に出てしまっていることに違和感を持ちます。
2018年のハフポ記事では「反省しています」
男性の性加害は「元気があってよろしい」「女遊び」「破天荒」といった言葉で許容されてきた過去があります。マスコミも率先してその印象操作を行ってきました。
箕輪氏は2018年に公開されたハフポストのインタビュー記事の中で、「女性をゲットする」という言い方など「男子校ノリ」であることの指摘を受け、「申し訳ない」「反省しています」「慎重に行動します」「悪気もない」などと語っています。当時の指摘に向き合ったのであれば、ここまでの惨事は起こらなかったはずでは。今回のことは表向きの反省パフォーマンスや「悪気はなかった」ではすまされないのではと感じます。
先進的な活動をしているはずの「天才編集者」が、古臭いジェンダー観に縛られているように見えるのは滑稽です。私のような木端ライターの声は箕輪氏や見城社長には到底届かないでしょうが、これを機に変わってほしいと思います。
【関連記事】
性犯罪の加害者は、なぜ「被害者のほうが悪い」と本気で弁明するのか(2020年5月26日/現代ビジネス)
「性犯罪の加害者の中には、他罰性がとても強い人がいる。他者非難を行うことで加害的な自分を減じていくスキルに長けている。
裁判所が悪い、検察官が悪い、被害届を出した被害者が悪い。その理屈に私たちを巻き込もうとするのです。たとえば、自分はこんなに熱心に反省しているのに…と見せつける。刑務所は男性的な組織なので、その語りが(刑務官や臨床の)担当者の“男性性”に火を点けることがある。
同じ男性だということで共同体をつくるんです。(刑務所内のグループワークなどで)そのような状態になってしまいそうなとき、私は『メンズトークになってるよ』と注意します」
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May 31, 2020 at 11:48AM
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